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岸田総理を狙った爆発物(IED)による襲撃の考察 (2023年4月16日現在)



4月15日に和歌山県で発生した岸田総理爆発物襲撃事件について、現時点で判明している情報をもとに、考察をしてみました。



(1) 襲撃発生時の警備行動について


昨年7月に起きた安倍元総理襲撃事件の教訓から、警察では要人の警備を強化していたものの、今回の事件が起きてしまいました。今回も、警察の警備体制のあまさなどを指摘する声が出てきていますが、今回は明らかに前回(安倍元総理襲撃事件)とは違う点があります。それは、事件が発生した瞬間の警備対象者への対応です。安倍元総理が襲撃された際には、銃撃された警備対象者(安倍元首相)をすぐに現場離脱させず、いつまでも事件現場に放置していたことが、警護業界では問題視されていました。緊急事態が発生した際に警護員が取るべき行動は2つしかなく、『Cover & Evacuate』と呼ばれる、『即時介入』と『現場離脱』です。攻撃が起こった瞬間、警護員は次の攻撃を防ぐため、脅威者(攻撃者)と警備対象者を結ぶ線(攻撃線)上に割って入り(即時介入)、同時に警備対象者を危険なその場から緊急退避(現場離脱)させます。このどちらもできていなかった安倍元総理襲撃事件は、警備のミスが指摘されても仕方ありませんでしたが、今回の事件では、投げ込まれた爆発物(IED)を認識した警察官が、素早く岸田総理とIEDとの間に割って入り、防弾カバンをひろげ、岸田総理を押すように現場から離れさせ、その後すぐに安全なところへ退避させています。このことから、緊急事態が発生した時の警察の警備行動は適切であったと考えられます。



(2) 未然に防ぐことはできなかったのか


このような事件が起こると必ず指摘されるのが、『この事件を未然に防ぐことはできなかったのか』という点です。米国の大統領選挙時のように大規模な警備体制を敷いての警備・警護を行うことができればそれも可能ですが、通常、海外においても、選挙活動中の政治家は、有権者とできるだけ近くで接することを好み、接近してくる人たちすべての身体検査や手荷物検査,身元調査などを行うことは、イベント会場での演説会などでない限り、実施はとても難しいです。特に街中での遊説中は、不特定多数の人が近づいてくるために、警護がとても難しくなります。最近では、フランス大統領が市民から平手打ちをされた事件なども起きています。そうかといって、警備を強化し過ぎると、有権者との交流が難しくなり、本来の目的である選挙活動が効果的に行えなくなります。警備対象者のライフスタイルの確保とセキュリティの確保は相反することが多く、警護チームは常にその狭間で、両者のバランスを取りながら、自分たちができることの範囲の中で最大限の努力をするしかありません。このような事件が起きてしまうと、少なからず世の中からのバッシングを受けるのは避けられませんが、それでも、『自分たちがやるべきこと・やれることはすべてやっていた』と断言できるのであれば、それは警備の失敗ではありません。なぜならば、この世の中に100%安全なところなどありませんし、100%の警護(完璧な警護)など存在しないからです。今回の警備体制等についても、警察が堂々と『自分たちがやるべきこと・やれることはすべてやっていた』と断言できるのであれば、それは、安倍元総理襲撃事件の教訓が活かされたと言えるのではないでしょうか。


(3) 攻撃手法(MO)について


安倍元総理襲撃事件では、手製銃器が攻撃の道具として使用されました。銃器の場合、撃ち出されるもの(弾丸や鉄の球など)の殺傷能力を高めるため、火薬が使用されます。つまり、銃器の製造過程では必ず火薬の入手や製造が必要となります。そして、その火薬の爆発によって発生する爆圧を、弾丸や鉄の球などを撃ち出す運動エネルギーとして利用します。そしてこの運動エネルギーが効率よく弾丸等に伝わり、かつケースとして銃器本体自体がその爆圧によって破壊されないように、様々な工夫がなされて銃器は完成します。そのため、銃器を作るのには、それなりの知識や時間,労力,実験などが必要となります。これに対し、爆発物(IED)はもっと安易に製造することができます。軍隊などで使用する攻撃力の高い爆薬“高性能爆薬(High Explosives)”は、その入手や製造・起爆はかなり難しくなりますが、花火や工事現場等の発破,銃器の弾の発射薬などに使用される“弱火薬(Low Exprosives)”は、知識さえあれば、比較的簡単に製造することができます。今回も、鉄パイプのような形状のものから出ていた紐状のものに、犯人がライターで火をつけようとしているところを目撃した人がいる、という情報から、使用した火薬(爆薬)は“弱火薬”である可能性がとても高く、入手や製造は容易であったことが伺えます。

爆発物(IED)と聞くと、日本人の多くは、不特定多数の人をターゲットにした爆破テロのような攻撃で使用する道具、というイメージを持ちますが、海外においては、過去に多くの要人がIEDによって暗殺されており、IEDは、テロ攻撃の道具以外にも、個人を暗殺する道具として認知されています。そのため、海外の要人警護訓練では、必ずといっていいほど、IEDに関する教育や訓練が行われ、警備体制にも必ずIED対策が施されます。今回注目すべき点は、警察警護が、このIEDによる攻撃を現実の暗殺手段として想定をしていたか、そしてその想定に対してIED対策を普段からどれだけ教育・訓練し、現場で実施していたか、です。もし、IEDに関する教育・訓練が十分に為されていない,または教育・訓練しても現場で実践されていない、となると、残念ながら『自分たちがやるべきこと・やれることはすべてやっていた』とは言えません。爆発物(IED)対策とは、IEDが見つかってから爆弾処理班が出動し対処することだけではありません。IED攻撃を未然に防ぐためにも、警備・警護業務で実施すべきIED対策はたくさんあります。


現在までにわかっている情報から考察できることは以上です。


今回の事件では、爆発物の一つが起爆されずに押収されたこと,犯人が生きていること、などから、今後様々なことが判明してくると思いますが、爆発物を使ったテロ攻撃や暗殺行為は、前述したように比較的容易であることから、今後の模倣犯の発生を防ぐため、警察等が情報公開を抑える可能性はあると思います。昨年7月に起きた安倍元総理襲撃事件の教訓を今回活かせたように、今回の事件の教訓から、次の事件を防ぐことができれば、と思っております。



【追記】

その後の事件報道などを見ていて、一点気になるところがありましたので追記します。

それは、爆発物と思われる物体が投擲される前の警護員の行動です。


通常、群衆がいる環境下での警護は、警護員は常に群衆の方向を向き、群衆の「目」「手」「行動」の3つを観察していなくてはなりません。警護警戒の基本中の基本です。しかしながら、今回、IEDが投げ込まれる直前の警護員の立ち位置や目線を見てみると、群衆の方向を向いて、群衆の観察している警護員がほぼいなかったように思えます。これでは、不審な行動を取る人物の確認が遅れ、当然のように対処も遅れます。唯一、真っ先に警備対象者(岸田総理)をカバーした警察官だけが、直前に群衆方向を見ており、飛んでくる不審物の存在にいち早く気づくことができていました。彼が素早く対処行動を取ることができたのは、気づくのが早かったからです。「気づく」ためには「観察」が必要ですが、今回の警護では、群衆に対するこの「観察」が疎かになっているように思います。群衆がいる環境下での警護手法について、警察がしっかりと教育・訓練されているのか疑問が残るところです。



16 April 2023

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小山内秀友

CCTT INC: Protective Security Service Japan 代表

AISP: Association of International Security Professionals Vice Chairman

International Bodyguard Association 副長官兼アジア地区統括責任者

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